「小児食物アレルギーの診療」について

「小児の食物アレルギー対策」
食物アレルギー診療ガイドライン2012(日本小児アレルギー学会)を踏まえて

山梨厚生病院 小児科 池田久剛

はじめに

  昨年末、調布市の小学校で学校給食の誤食によるアナフィラキシーショック事故があり、不幸な転帰となったことは周知のごとくである。こうした不慮の事故防止の観点からも、食物アレルギー患者の診療ならびに保護者、幼稚園、保育所、学校・給食関係の支援者との情報共有、正しい食物アレルギーの知識の啓蒙は、今後も必須となる。

  食物アレルギー患者の有症率は近年増加の傾向にあり、また食物アレルギーの診療は、ここ数年間に大きな進展と変化を遂げている。今回は、最近改訂された食物アレルギー診療ガイドライン2012(日本小児アレルギー学会)を踏まえ以下の事項を中心に解説したい。

食物アレルギー定義の変更 

  従来の食物アレルギー診療ガイドライン2005では、食物アレルギー定義として原因となる食物(アレルゲン)を「摂食した後、IgE抗体やリンパ球などの免疫学的な仕組みが過剰に働いて、生体にとって不利益な様々な症状が起きる現象」と記載されていた。しかし最近話題となった茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギ(グルパール19S)による即時型小麦アレルギーに関する知見からは、経皮膚感作により固有の過敏性を獲得、結果的に経口摂取による通常の小麦成分に対しても過敏性を示すようになっていることが明らかとなり、ガイドライン2012では成立機序の考え方が変更されて、「経口摂取のみならず吸入、皮膚接触、注射成分も含めて食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して、生体にとって不利益な症状が起きる現象」とする新しい考え方が提示された。 


食物による不利益な反応には、細菌毒素や自然毒等の毒性物質による反応(toxic reactions)のようにすべての人に起こる現象と、食物アレルギーのようにある特定の人に免疫学的機序(IgE依存性反応・IgE非依存性反応)を介して起こる非毒性物質による反応があり、このほかに免疫学的機序を介さない現象として代謝性疾患(乳糖不耐症など)や薬理活性物質による反応(仮性アレルゲン)など食物不耐症(Food intolerance)がある。     


食物アレルギーの疫学 有病率 原因食物

  食物アレルギーの有病率は、乳児では約10%にも及ぶが、3歳児で約5%と減少し、学童以降では1.3~2.6%となり、全年齢を通して、推定1-2%程度の有病率とされている。(欧米では、フランスで3-5% アメリカで3.5-4%)全年齢における原因食物は、平成20年即時型アレルギー全国モニタリング調査によると鶏卵38.7%、牛乳20.9%、小麦12.1%であるが、年齢別新規発症例を見ると0歳では鶏卵55.6%、牛乳27.3%、小麦9.6%であるが7歳から19歳では果物類21.9%、甲殻類17.1%、小麦15.2%の順となっており原因食物が変わっている。生後6ヵ月で卵アレルギーまたは牛乳アレルギーと診断された子どもは、3歳で50%、6歳で80%以上耐性獲得し無症状になることが知られており、これは年齢と共に消化能力やS-IgAを介する腸管の局所免疫が成熟することや、過剰な免疫応答が抑制され経口免疫寛容が得られることによる。したがって年齢と共に耐性の獲得に応じて除去食は緩和されるべきであり、不必要な除去は避ける必要がある。しかし山梨県教育委員会学校保健課題解決支援事業「アレルギー疾患対応支援チーム」による平成24年度学校におけるアレルギー疾患に関する実態調査報告によると、食物アレルギーで特定の食材を除去している児童生徒のうち医師の診断にもとづいているものは、小学校では49.9%にとどまっており、「原因食品の除去は、必要最小限にとどめるべきであり、不必要な除去を避けるためには、原因食品の正確な診断が必要である」との基本原則が達成されていない。

診断検査

  食物アレルギーの診断には、まず詳細な問診が重要となる。問診のポイントは、症状を起こした食品の種類と摂取量、誘発症状を経験した年齢と再現性や直近の症状出現時期の確認、誘発症状の内容、摂取後症状発現までの時間、症状を起こすほかの条件(運動、薬剤など)の有無、過去の検査結果、現在の摂取状況である。

  特異的IgE抗体価が陽性であることは、その抗原による感作成立を意味するが、必ずしも症状惹起を意味しない。しかし、一部の抗原(卵、牛乳、小麦)では、特異的IgE抗体価と食物負荷試験陽性率の関連を示すプロバビリテイーカーブ(probability curve)が参考となる。さらに95%の確率で経口負荷試験が陽性となる特異的IgE値が報告されているが、報告者によってその値は異なっている。

アレルゲンコンポーネント診断 

  食物アレルゲンの診断については、ガイドライン2012第5章にアレルゲンコンポーネント診断Component resolved diagnosis (CRD)が新設され、現時点で判明しているコンポーネントについて記載されている。1つの食品には複数のアレルゲンコンポーネント(抗原)が含まれており、感作の原因や、感作経路によってどの抗原にアレルギーがあるかが異なり、それに伴い臨床症状に差異が出ることが判明してきた。たとえば熱や消化酵素に耐性の抗原にアレルギーがある場合には、全身症状をきたしやすく、熱や消化酵素により壊れやすい抗原にアレルギーがある場合は、口腔アレルギー(oral allergy syndrome OAS)をとる。したがって同じ食品でも調理方法により食品中の抗原の状態が異なり、どの抗原にアレルギーがあるかをCRDを用いて検査することは、患者の生活・食事指導に極めて有用となる。現在、日常診療においても卵白のオボムコイド、牛乳のカゼイン、小麦のω-5グリアジンなどの特異IgE測定が可能となり、現行の粗抽出抗原の特異IgE測定に比べて臨床的な特異度や感度に対する精度が向上している。卵白のオボムコイドは、他の卵白コンポーネントに比較して加熱によりIgE抗体との結合が減弱しない。このため、オボムコイド特異IgEが高値の例ではゆで卵など加熱した卵でもアレルギー症状を呈する可能性が高く、逆に卵白特異IgEの高低にかかわらずオボムコイド特異IgEが低値であれば加熱卵を摂取できる可能性が高く負荷試験の適応を決定するために極めて有用となる。

小麦では、グリアジンに含まれるコンポーネントの一つであるω-5グリアジン(Tria19)が成人の小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)患者の原因として見いだされ、小児の即時型小麦アレルギーでは、小麦陽性かつTria19特異IgE高値例は、小麦アレルギーの可能性が高く、また最近ではイムノキャップによるTria19のプロパビリテイーカーブも算出され日常診療でTria19特異IgE検査の有用性が高まっている。

  その他現時点では研究用の検査となるが、ピーナッツでは、貯蔵タンパクの2Sアルブミン(Arah2)特異IgE検査が診断に有用とされ、臨床的感度は粗抽出に劣るものの、特異度が飛躍的に改善され、Arah2陽性例はピーナッツアレルギーの可能性が高い。

  (平成26年保険収載見込み)ナッツ類では、全身症状に関連するLTPおよび貯蔵タンパクと、PFSに関連するPR-10およびプロフィリンが知られている。ナッツ類のアレルギーは重篤で、従来の粗抗原検査では複数のナッツが陽性となるため、多数のナッツ類の除去が指示されるが、実際に誘発される症状は、特定のナッツに限定されるため、今後はコンポーネント特異IgE検査による確実な原因診断が有用となる。

食物アレルギーの特殊型


口腔アレルギー症候群(OAS) 

  口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome OAS)はIgE抗体を介した口腔粘膜に限局する即時型アレルギー症状のことで、花粉症を合併する場合pollen-assosiated food allergy syndrome(PFS)と呼ばれる。

  原因食品は生野菜や果物であり、患者の多くが花粉症を有しており、原因アレルゲンとしてBet v1(シラカンバ主要アレルゲン)と同じグループに属するタンパク質や、プロフィリンなどが知られており、これらのタンパク質に感作されると交差反応性がある広範囲の生野菜・果物に過敏反応を示す可能性が指摘されている。

リンゴ、ももなどのバラ科の果実によるPFSが多く、これらはPR-10が原因となり、Bet v1特異IgE抗体価の高い例ほどこれらの果実によるPFSを起こしやすくなる。またナッツと同様にLTPによる果実摂取後の誘発症状は、全身症状が多くなることが知られている。

診断は、病歴および特異的IgE特異的抗体価を参考に行うが、補助診断としては prick-to- prick test が有用である。確定診断のための経口負荷試験は新鮮な食品の舌下投与で行う。治療の基本は除去であるが、症状はヒスタミンH1受容体拮抗薬投与で軽減され、多くの食品は加熱処理によって経口摂取が可能となる。

最近、成人花粉症に対する特異的免疫療法によるOAS治療効果に関して多くの報告がある。


ラテックス・フルーツ症候群(latex-fruit syndrome)

  果物や野菜に含まれる抗原とラテックス抗原との交差反応性に起因し、ラテックスアレルギー患者の約半数が、アボガド、クリ、バナナ、キウイなどに対する即時型アレルギー反応(アナフィラキシー、喘鳴、じんましん、OAS)を呈する。診断は、詳細な問診、皮膚試験、血中抗原特異的IgE抗体検査を参考に行うが、確定診断にはOASを呈する症例には舌下投与試験、OAS以外の症状を呈する症例には経口負荷試験を行なう。しかしアナフィラキシーショックを生じることが予測される場合には、原則として負荷試験は行なわない。治療の基本は除去で、重篤な症状を引き起こした症例には、当該食品およびその加工品の除去を指導する。


食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIAn) 

  食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、比較的稀な疾患で、発症機序はIgE依存性であり、食物アレルギーの特殊型に分類される。食物摂取あるいは、運動負荷単独では発症せず、特定の食物摂取後の運動負荷により発症する。しかしながら、同一の食物と運動負荷の組み合わせであっても常に発症するとは限らず、発症には多くの要因が関与する可能性がある。さらに冒頭に述べたように、近年加水分解小麦蛋白含有化粧石鹸の使用後に小麦依存性運動誘発アナフィラキシー発症例が多発し社会問題化したことなどFEIAnの発症機序については、まだ明らかでない点も少なくない。好発初発年齢は中学・高校生から青年期で、発症は食後2時間以内の運動負荷の場合がほとんどで、原因食物は、小麦製品と甲殻類が大部分で、発症時の運動は、負荷量の大きい種目が多い。発症には「食物+運動負荷」にいくつかの増強因子が関与し、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬は増強因子の一つとなる。診断は、問診とアレルギー検査から原因食物を絞り込み、運動誘発試験を実施することが望ましいが実際の再現性は高くない。発症を防止可能な薬剤は確立しておらず、不慮の事故防止の観点からも、患者と保護者への教育・指導と学校関係者などへの情報共有が重要である 

症状 アナフィラキシー症状の重症度  Burks &Sampson グレード分類の一部改訂 

  アレルゲンの侵入により、複数臓器に全身性アレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過敏反応をアナフィラキシーと定義しており、今回のガイドラインにはショックと診断される血圧を含む診断基準と重症度が示されている。

​調布の事故調査委員会報告から学ぶ
 

症状 アナフィラキシー症状の重症度  Burks &Sampson グレード分類の一部改訂 

  アレルゲンの侵入により、複数臓器に全身性アレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過敏反応をアナフィラキシーと定義しており、今回のガイドラインにはショックと診断される血圧を含む診断基準と重症度が示されている。

医療機関外での誤食時の対応

  誤食時には口から出す、背部殴打法によって胃内に入った食物を誤嚥に注意して吐かせて口をすすぐ、あるいは洗い流すことによって吸収される抗原量をできるだけ減らす対策を採る。食品を触った手で目を擦り、眼症状が出現した場合には、洗眼後、抗アレルギー薬、ステロイド薬の点眼をする。
さらに医師から処方されたヒスタミンH1受容体拮抗薬、ステロイド薬などの緊急常備薬を内服させる。病状の進行が見られたり、複数の臓器において症状が発現した場合には、直ちに医療機関を受診する。このとき救急車要請やアドレナリン自己注射器(エピペン○R )使用も考慮する。エピペンは救急救命士が業務として注射することが認められている。アナフィラキシーショックが疑われるときには、下肢を約30度高くするショック体位で横たえて救急車の到着を待つ。心肺停止時には蘇生術を開始する。


アナフィラキシー治療の実際

  皮膚症状は生命に直結することはなく、全身性に認めた場合でも重症度分類ではグレード2であり、抗ヒスタミン剤投与で対応する。呼吸器症状で緊急性が高いのは喉頭浮腫による気道狭窄で、犬吠様咳嗽、嗄声、吸気性喘鳴を認めた場合は、直ちにアドレナリン筋注を行なう。軽度の喘鳴を認める場合は、気管支拡張薬の吸入で対応するが、改善せず明らかな陥没呼吸を伴う場合は、十分な酸素投与下にアドレナリンの筋注を行なう。特に気管支喘息合併例では、呼吸器症状の増悪を認めることが多く注意が必要である。

  消化器症状で生じる嘔吐は摂取したアレルゲンを排出するための反応であり、制吐薬は使用しない。腹痛や下痢は消化管粘膜の浮腫と蠕動亢進によるものと考えられ、症状が強い場合はアドレナリンの筋注が有効である。循環器症状は、緊急性を要する症状であり、心拍数が15/分以上増加する場合は、仰臥位にし下肢30°拳上、酸素吸入、輸液など治療を開始する。アナフィラキシーショックではHypovolemic shockを起こしているため生理食塩水を10~20分で10~20ml/kgで投与する。ステロイド薬の投与は、即効性はないが、遅発反応を抑制することを期待して投与されている。

  食事療法 正しい原因アレルゲンの診断に基づいた必要最小限の除去食
基本的な考え方は、「原因食品の除去は、必要最小限にとどめるべきであり、不必要な除去を避けるためには、原因食品の正確な診断が必要である」ということであり、この考え方は、食物アレルギー診療ガイドライン2012においても、食物アレルギーの標準的治療法の基本原則として明確に提示されており、原因食物を正確に診断するために最も診断精度の高い経口負荷(除去)試験の重要性が指摘されている。
保護者の偏った思い込みや、過度の心配による不必要な食物除去を避ける為、また一度除去した食物が耐性の獲得に伴い「いつから食べられるようになるのか(除去の解除)」を確かめるためにも経口負荷試験は重要であるが、実施している医療機関がまだ限られているのが実情である。

当院における食物経口負荷試験の方法について

  食物経口負荷試験の目的としては、まず食物アレルギーの確定診断として①複数食品を摂取後に即時型反応が誘発された場合の原因アレルゲンの同定のため②食物アレルギーの関与を疑うアトピー性皮膚炎などで、除去試験に引き続き行う③感作が証明されているが未摂食の食品に対する誘発症状の確認が挙げられる。次に、耐性獲得の診断として①食物アレルギーの確定診断後、一定期間除去を継続してきた食品の解除時期の決定。さらには症状誘発リスクの評価として①安全摂取可能量を決定する。②入園・入学などに際して安全管理の指標とする。ことなどがあり、前述のprobability curveを参考にその適応を決定しているが、実際には負荷試験時に重篤なアナフィラキシーに対する対応を必要とする症例も少なくない。
特に入院による経口負荷試験の適応としては、①食物アナフィラキシーの既往歴がある。②特異的IgE値が高く、重篤な食物アナフィラキシー誘発の可能性が高い。③医師の判断で、重篤な食物アナフィラキシー誘発の可能性が高いと考えられる場合であり、今後さらに負荷試験実施施設が増え、かかりつけ医の先生方と負荷試験実施施設との病診連携が充実していくことが重要と考えている。


対症療法 経口免疫療法(Oral Immuno therapy OIT)について

  最近、今まで「常識」であった除去食療法とは正反対の「積極的に食べさせる」経口免疫療法がおこなわれるようになり大いに注目されているが、この治療を安全に行うためには、専門医との綿密な相談が必要で、まだ現在研究段階にあり、一般的な治療とまではなっていない。OITは耐性を誘導する可能性のある将来有望な治療であり、その有効性については最近数々の報告があるが、現時点で小児アレルギー学会ではOITを一般診療として推奨していない。OITにより必ず耐性獲得できるわけではなく、治療経過中に症状が誘発される事も多く、かつ重篤な反応も起こりうるからで、OITは専門の医師が患者及び保護者から十分なインフォームド・コンセントを得た上で、症状出現時の救急対応に万全を期し、慎重に取り組む事が強く推奨されている。減感作状態と耐性獲得は異なる状態であり、未解決や未知の問題が山積しており今後さらなる知見が必要であると考えられる。


医学的根拠に基づいた保育所・幼稚園・学校における生活管理

  一人の食物アレルギー児を安心安全に育てていくには、保護者のみならず地域の保健師、栄養士、園や学校の保育士、教師など養育の支援にかかわる人々の理解と協力は不可欠である。特に園医、学校医と連携し全体を指導する小児科医の責務は重要となり、正しい診断に基づいた必要最小限の食物除去の指示と、誤食時や緊急時の対応や生活上の留意点についての適切なアドバイスが求められる。しかし「医師により指導が違う」など適切な食事指導がされず混乱する場合もあり、また適正な指導がされたとしても、長期間、多品目の除去食療法が必要な場合や、アナフィラキシーの対応について、現場では大変苦心されており、園や学校における食物アレルギー対策は、社会的にも重要な課題となっている。
文部科学省は平成19年に発表した「アレルギー疾患に関する調査研究報告書」に基づき、「アレルギー疾患は稀な疾患ではなく、学校保健を考える上で、既に、学校に、クラスに、各種のアレルギー疾患のこどもたちが多数在籍していることを前提としなければならない状況になっている」という認識を示した。その上で学校がアレルギー疾患の児童生徒に対する取り組みを進めていくために、平成20年5月に日本学校保健会より「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」が発刊され、学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)の運用が開始されている。この学校生活管理指導表に準拠する形で、平成23年3月に「保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表」が厚生労働省から発表された。アレルギー対応の理念や方法に関しては同様であり、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アナフィラキシー・食物アレルギー、アレルギー性鼻炎が対象疾患である。各種アレルギー疾患により園や学校で特別な配慮が必要と保護者が希望した児童について、主治医が必要な情報を記載し、それをもとに保護者と園、学校の関係者が相談し地域や施設で可能な対応を決定する。

さらにアナフィラキシー時の対応医療機関が、記載した医師とは異なる場合にも配慮し、緊急連絡先の記載欄を別に設けている。

  平成23年9月より保健収載されたアドレナリン自己注射器(エピペン○R)の使用については、前述の学校ガイドラインの中でアナフィラキシーショックに対処する自己注射を、本人に代わって教職員が打つことは医師法に違反しないとする見解が示された。

  平成21年3月から救急救命士の投与が可能となり、これを受けて学校や保育所と地域の救急隊との連携について取り組みを促す行政通知も出されている。しかし本人や保護者以外の養育関係者が投与した症例は、救急救命士も含めてまだ少ない。園・学校関係者の理解を深めるためには、医療機関からの明確かつ具体的な情報提供が必要となる。園や学校には、緊急対応が必要な児童について施設内の全職員が周知し、①緊急性の高い症状について理解して判断する。②内服薬、吸入薬、アドレナリン自己注射、ショック時の対応や心肺蘇生の手技を習得する。③緊急時に実施することの役割分担を知り、行動できるよう日頃から演習する。ことが求められている。誤食事故防止やアナフィラキシーの対応について施設内に「食物アレルギー対応委員会」を設置してそれぞれの施設に応じたリスクマネージメントを統括してゆく必要がある。

​山梨県教育委員会では「学校におけるアレルギー疾患対応マニュアル・学校生活編・生活管理表編・緊急時対応・エピペン編」を平成24年4月に発行した。これについては山梨県小児科医会アレルギー対策委員会、山梨県医師会学校医委員会の監修のもと改訂され、最近多くの学校の現場で活用されるようになっている。今後もさらに具体的な演習や地域における啓発活動が必要と考えられる。


終わりに

  食物アレルギー児の安全で健康な生活の一助となる事を願い、小児科医会会員各位のご理解とご協力のほどよろしくお願い申し上げます。